そう、それは遠くない昔のこと。
『いやぁ…っ、離して!どうして?』
『こんな見た目なら、きっと高く買い取ってくれるだろうなあ』
『今みたいな貧乏暮らしより、ずっとずっと良い暮らしが出来るんだよ』
『さあ、このジュースを飲んでごらん。おいしいよ?』
昔の事だとわかっていても
鮮明に脳裏に焼きついて離れない。
とても忌まわしい記憶。
忘れたい、と思っても忘れられない。
どんなに記憶喪失になりたかったか。
考えれば考えるだけ、記憶にはっきりと焼きついていく。
手足に縄、ひどければ鎖。
なんだかとても甘ったるい煙。
異様なほどに飾り付けられた部屋。
煌びやかな天蓋、大きな房飾りで括られたカーテン。
それに反して、1日2回のひどく粗末な食事。
いつも、喉が渇いていた。
心も乾いていた。
感情が起こらないほど、衰弱していたのかもしれない。
同じような扱いを受ける人が、他にも居たりした。
喋りかける余裕もなかった。
その人も、ある時不意に居なくなったりした。
…その日はひどく怖くなって、眠れなかった。
目が覚めても動悸は激しく、なかなか治まらなかった。
相変わらず、手のひらも背中も胸元も…ひどい汗で。
情けなくも頬を伝う涙。
とても頭が痛い。
こんなに弱い私ではないはず…
震える身体を抱きしめるようにして、また眠る。